創作活動

積み重ねの先へ


「それってまるで、芸能人の下積みみたいだね」

 ふいにそう言われて、ハッとした。

 ことの始まりは、同人誌を販売するために西日本を飛び回っていると話したことだった。
 職場の仲いい同僚は、私が小説を書いていることを知っている。
 Switch2が店頭に並んでいるから買えるよと提案を受けた流れで、「いや、金があるようでないからね」なんて言ってしまったりして。

 正直な感情だった。
 Switch2を買ったところで、どのくらいゲームに時間が充てられるか。
 という本音はさておき。ここ最近の日帰り旅が財布にジャブを打ち続けていて、ゲーム機を買うことに躊躇いが生まれていた。

 いや、望み好きでやっていることだ。
 だからそれに関してどうこう言うつもりはない。

 というか、今回は金の話でもSwitch2の話でもないのだ。
 同僚が言った、冒頭の一言についてである。

 なぜ大阪や京都、福岡に行くのか。

 アンソロジーをたくさんの方に届けたいという想いはもちろん、地道に自身の名前を売っていくという目的もすこしある。
 知名度がない人は、自身を宣伝し続けるしかない。
 それを同僚は、「芸能人の下積み」だと表現したのだ。

 私はそんな風に考えたこともなかった。

 下積み。
 言われたら確かにそうかもしれない。

 今やっていることを「下積み」と捉えて頑張っていれば、いつか良い未来が来る。かもしれない。

 たったそれだけ。
 根拠のない曖昧な言葉。
 だけど、なんだか同僚のおかげで、すこし未来が明るく見えた気がした。

 もっと頑張ろうって、心から思えた。

 Switch2は買わないと思う。

 でも同僚が「買ったらオンラインやろ」と言っていたポケモンの新作は、買おうかな。なんて。

 そんなことをひとり思う、静かな夜のこと。

 

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